one-way love
いつか副隊長が得意げに披露してくれた恋占いとやらで、僕はBタイプだった。
「妙にプライドが高く、恋愛においては相手を好きだと言う気持ちが大きい方が不利だと思い込みがち。恋は受け身型」だという。
あぁ、なるほど。ぴったりだ、と僕は苦笑した。
朝の身支度を終え、まだ覚めやらぬ体で隊詰所へ行けば、一角は隊長となにやら熱心に話しこんでいた。
ここで嫉妬するように、二人の会話に割り込んで行ったら醜いだろうなぁ、と思って僕はさっさと自分の席へつく。
やりかけの書類に目を通しながら、見ない不利をしつつ二人の会話を盗み見た。
(生憎内容までは聞こえなかったけれど。)
隊長と話し終わった一角は、僕の方にちらっと視線を投げかけた。
「話し掛けられるのを待ってます」みたいな表情にならぬように僕はそ知らぬ顔で活字に目を落とす。
本当は書類の内容なんてこれっぽっちも頭に入ってこないけれど。
ここで僕から話し掛けに行くわけにはいかない。それじゃあ、まるで僕ばっかり好きみたいだから。
そんな僕の狡猾さなど何も知らずに、一角は近づいてくる。
僕はギリギリまで書類に目を落とし、わざと無視していたのがバレないように、「気配を感じてやっと気づきました」という表情で一角を見上げる。
ここで、喜んだり、待ってました!という顔をしたらNG。
「おぅ、弓親。」
「あ、一角おはよう。」
僕達の関係ならこの二言で十分だ。
いつものように、一角は僕の隣の事務机に座る。
「あ、そういやさ。」
「なんだい?」
「この間お前に書類手伝わせたろ?」
「あぁ、うん。」
「お礼っちゃーなんだが昼どっか食いに行こうぜ。おごってやる。」
本当はすごくすごく嬉しいのだけれど、僕はさりげない顔で考えるふりをする。
だって僕がここで心の中をそのまま露にすれば、まるで僕が君に熱烈に恋しているみたいじゃないか。
まぁ、実際そうなんだけどね。
「んー・・・っ、と、うん、ありがと。でもごめん、今日は檜佐木副隊長と昼はご一緒することになってるんだ。」
「檜佐木?ってあの九番隊のか?お前面識あったのか?」
「ちょっと、ね。」
わざと思わせぶりに笑って見せれば、君の目にかすかに嫉妬の色が浮かぶ。
僕が君の愛を感じる至福の瞬間。
「ごめん、だからまた誘ってくれる?」
「おぅ、わかった!」
「今日の夕方から現世だったよね?気を付けて!」
「おぅ。」
それっきり一角は、席を立ってどこかへ行ってしまった。
近くで僕達を見ていた副隊長が、ててて、と歩いてきて僕に小さく耳打ちした。
「つるりんって、いっつもあんなエラそうなのに、ナルちゃんと話してるときだけデレデレちゃんだよねー。」
「ははは、そう見えます?」
「うん、やっぱ愛の為せる業ってやつなのかな?」
「おい!やちるてめぇ、どこでそんな言葉覚えてきた!?」
「うわーん、剣ちゃん怒っちゃだめだよ!」
いつものように楽しそうな隊長と副隊長を横目に見つつ、僕は心の中でひそかに笑った。
デレデレちゃん、デレデレちゃん、と反芻しつつ。
一日の仕事を終え、(結局昼はアリバイ作りのために、本当に〆切寸前の書類に追われていたどこぞの副隊長さんを連れ出して、無理やり共に昼食を楽しんだ)部屋に戻って髪を梳いていたら、伝令機が鳴った。
画面を見たら、一角からだった。
けれど、僕はその着信音が7回鳴るまで待つ。
コール数と愛情は正比例。
電話口でじりじりと待っている一角が目に浮かんで、ほほえましくなる。
8回目でやっと通話ボタンを押した。
「はい、こちら綾瀬川」
「あ、俺。」
「あれ、現世だったよね?何かあったの?」
「そうじゃなくてよ・・・ただ、」
電話口でもごもごと何か言うのが聞こえる。
「今日の昼飯の話だけど、予定、きいとこっかなー、と・・・」
「え?ごめんきこえないよ。」
勿論全神経を集中させているから聞こえないなんてことは無いけれど。
現世にいるのに、私用なのに、わざわざ伝令機を使ってまで一角が連絡をくれたという事実に、思わず頬が緩んだ。
僕ってば、本当に意地が悪い。
「あーくそっ!今度いつ昼飯食えるかってきいてんだよ!?俺が帰る日暇か!?」
やけくそで言われた言葉に、思わず嬉しさとおかしさと、笑みがこぼれる。
「今笑ったか!?叩いて伸ばして天麩羅にすっぞ。」
「あー、ごめんごめん。んーちょっと待ってね。暦表見てみる」
本当は覚えている位に予定は少ないけれど、僕は壁にかかった暦表を見る。
空白の3日後を眺めながら、
「えーっと・・その日は無理だけど、その次の日は大丈夫。」
「そうか、じゃあ俺が帰ってきた次の日な!分かったな!」
そうやって、素直に喜びをあらわに出来る君を、僕は心から羨ましく、そして愛しく思う。
そして、自惚れなんかじゃなく「僕って愛されてる」なんて馬鹿みたいに感じる。
「じゃあ、4日後な。食いたいもん決めとけよ。」
「分かった。現世討伐頑張ってね。」
「おう。」
「一角。」
「あ゛ん?」
「大好き。」
わざと爆弾発言を残し、一角が何か言うより早く通信を絶った。
たまには、アメも使わなくちゃね。
いつも、色んなものを僕にくれるのも、一角。
僕を必要としてくれるのも、一角。
だけど、君からもらったものを、全て残らず(見えるものも見えないものも)大切にとってあるのは、僕。
暦表に大きく「一角とデート」と書きこんで、僕はにっこりと微笑んだ。
くやしいけれど、いつだって本当は
僕の方が君のこと想ってるんだから。
了
20060122
一角は鈍感なので、自分の一挙一動がどれだけ弓親を(良い意味でも悪い意味でも)
振り回してるか自覚なさそうだなぁ、と思って書いたお話でした。
でも弓親も案外自分がどれだけ愛されてるか分かってないんだろうなぁー。
鈍感なバカップル希望!(笑)
ゆみちが、妙に恋する乙女チックなのは、この話がもともと別ジャンルの
夢小説に使ってたネタだったからです(爆)
昔書いた駄文とか、整理してたらたまたま懐かしい原稿が出てきて、
つい出来心で角弓で改稿してみたら、あんまり(主観的には)違和感無かったので
調子乗ってUPしてみました・・・
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