なんとなく、近いうちに別離の日がやってくるのは、分かっていた。
隊長は本当の事は何一つ、僕には話してくれなかったけれど、分かっていた。
これから起こるであろう出来事も、それに僕を連れて行っては下さらないだろう事も。

 

 

永 訣 の 日

 


「おい!吉良!吉良いねーのか!?」

障子で隔てられた部屋の外から、誰かの声が聞こえて、
僕は両腕に埋めていた頭をゆっくりと上げました。
阿散井君か、それともここ数日やたら心配して様子を見に来る、檜佐木先輩か。
今となっては、もうそれさえもどちらでもよくて、
僕は、黙って虚空を白痴のように見つめていました。


「いんのか?入るぞ。」


すーっと、戸を引く音とともに橙色のぼんやりとした光が
ほこりっぽい部屋に一筋入っては消えて行くのを見ました。
あぁ、もう夕方だったんだっけ。ぼんやり、思いつ。

足音が近づいてきたけれど、僕はそのまま座布団の上に鎮座し、
ただ焦点の合わない瞳で虚ろに俯いておりました。
久しぶりに会う他人の影は、哀れむように眉根を下げてため息をついたように思いました。
うつむいた視界に入ったのは、暗い部屋の中でいっそう黒さを増す、
客人の影だけだったから、よくは分からないけれども。


「灯りくらい燈せよ。辛気くせぇ。」
「・・・・・・。」
「おい!吉良!生きてるか?」

無理矢理顔の向きを変えさせられて、久しぶりに見た先輩の顔は
息を呑んだまま、言葉を無くして固く引き攣っていて。
僕は何故かそれに滑稽さを感じ、薄く微笑みました。
長く使っていなかった表情筋は、唇を少しだけ持ち上げただけで軋むように痛み、
目の下の隈や頬こけた顔と相まって、僕は今きっと酷い顔をしているのでしょう。

「なんつー面してんだよ。」
「・・・・・。」

 

****************

 

とりあえず部屋に出て外の空気でも吸えという先輩の忠告のままに、
腕を引かれつつ部屋を出てみたものの、久しぶりに見る外の世界はちっとも僕を慰めませんでした。

夕日の色、あなたの好きだった花や、風の温度や色彩。
それが、すべてセピア色に映るのはきっとあなたがもう居ないからなのでしょう。
それでも、僕の意識はまだあなたの不在を認めずにじんじんと疼いている。

「外の空気吸ったら、落ち着いたか。」
「・・・・・。」
「たまには、気分転換でもしねぇと身体壊すぞ。」
「・・・・・・。」
「おい、返事くらいしろよ・・。」


突然僕は、大事な用事を思い出したのです。
早く帰らなきゃ。帰ろう、帰ろう。

「帰らなきゃ。」
「は?」
「隊長が、待ってるんです。」

隊長がお腹を空かせて僕の作った夕飯を待っているのだから。
きっと待ちくたびれて僕が帰れば、大人気ない仕草で責めてくるんだ。

僕は、必死だったのです。

そんな哀れむような顔で僕を見ないでと言いたかったけれど、
それが彼なりの優しさなのだと思い言えませんでした。

「吉良・・・お前」
「分かってます!」
「市丸隊長は、もう」
「分かってますから!言わないで・・!」

あなたが居ない世界は、色彩に乏しく何もありませんでした。

どうして連れて行ってはくださらなかったのか。
どうして僕では駄目だったのか。
どうして何一つ言葉を残さぬままに行ってしまったのか。
悲しみや悔しさがぐるぐると頭に溢れているはずなのに、それさえも。
それさえも、今は殺伐と色の無いままに。

いや、本当はあなたが居なくても何も変わらないのでしょう。
あなたが居なくてもこの世界は色彩に溢れているのです。
セピア色に見えるのは、たしかに僕があなたと共に在ったという証を
残して置きたいが為の、僕のただの傲慢な錯覚だったのです。

「馬鹿だ・・・僕は・・っ」

僕はどうしようもなく、馬鹿で愚かで高慢でした。
自分が隊長の手駒であることを知りつつもなお、ずっと傍に置いてもらえると盲信して。
そんな嘘を馬鹿みたいに、信じて。

「守ってたんじゃなかったんだ・・・・!」

隊長の身を守ることが出来るのは自分だけだと思っておりました。
だから、隊長の傍にいられる権利を自分だけは持っていると。
馬鹿な、どうしようもなく馬鹿な。
本当はいつだって、冷たい風は前を歩く隊長が受けて止めてくれていて、
僕はその後ろにただ着いて行くだけだったのに。

「泣けよ・・・全部、吐いちまえって。」
「ごめんなさ・・っ」

袂で涙を拭いていたら、ぽんぽんと頭を叩かれるのを幽かに感じました。
あぁ、檜佐木先輩はいつだって優しくてこの人を好きになれば良かった
なんて、一瞬不毛な事を考えて僕はまた涙しました。

目を閉じれば、いつだってあなたが傍に居るのを感じる、
というのは真っ赤な嘘で。
今も刻々と僕の中のあなたは段々と消えていく。
そう、怖いのはあなたが僕の前から消えることよりも、僕の中から
あなたが少しずつ薄れていく事なのです。
人間世界よりもゆるやかな時の流れの中で、この永遠にも近い時間の中
残りの毎日をあなた無しで送るには、僕はあまりに弱すぎた。

あなたが居なくても、この世界はとても美しく、
太陽は沈んでいき、季節は巡っていく。
どんなに泣いたって変わらない、その事実。
やがて観念の中のあなたさえ、僕に別れを告げるのでしょう。

冷たい風が、頬をさすのを感じました。
もう、僕の前にあなたは居ない。
気づいてしまえば、あっけない事実だったです。

 

 

もうすぐ貴方の居ない冬が、やってくるのでしょう。
そして、永訣の日も。

 

 

 

 

 

あとがき


愛すべきヲタモダチ(笑)の柚朝乃亜ちゃんと高嶺司ちゃんが
この度素敵サイトを開設されたので、開設祝いを等価交換してもらいました。
素敵角弓文を頂いて有頂天になりつつ、こんなへっぽこギンイヅ文で不安ですが、
捧げます・・・ほんと初書きな上に暗くてすみませ・・!!全然等価交換になってなくてごめんなさい!
お二方のサイトはコチラ→
永遠の四葉

芹澤はネタにつまると、ひたすらそのCPのテーマ曲(と自分で勝手に決めた曲)を
エンドレスに聞きながら書くのですが、今回は元ちとせさんの「君ヲ想フ」を聞きつつ書きました。
これ、めっちゃギンイヅソングだと思います。
でも今思ったけど、ギンイヅなのに隊長がいっこも出てない・・Orz
むしろ修イヅ・・?

 

 

 

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