夢のあと

 

時々息の仕方が分からなくなる。
吸って、吐いて、吸って、吐いて。
生まれてから(きっと前世で死ぬ前も)ずっと当たり前のように繰り返してきたことが、とても難しい。

布団の上に起き上がって、僕は息をしようとした。吸って、吐いて、吸って、吐いて。
肩を上下させて大きく息を吸い込んだけれど、今度はさっき見た夢の醜さに肺が押しつぶされそうになった。
だんだんと、目が眩んできてまわりは黒く黒く侵食され、何も見えなくなった。
早く、夜が明けたらいいのに、何も見えないのは闇の所為か、それとも。

「ゆみ、ちか・・・?」

隣で眠っていた一角が目を覚ましかけた。
どうか、起きないようにと願いつつ、僕は息を押し殺した。
こんな自分なんて見られたくないのに。

「・・・おい、弓親・・!大丈夫か!?」

大丈夫なんかじゃないけど、こっちを見ないで。
そんな気持ちとは裏腹に、一角は起き上がって僕の震える肩を揺り動かす。
大丈夫だよ、大丈夫だから、構わないで。

「・・・・・・くい。」
「え?」
「みにくい、ゆめ・・・みたっ。」
「・・・そうか。」

そのまま、逞しい腕に引き寄せられて僕は一角の厚い胸板に顔を埋めた。
血が通わずに、冷たくなった僕の身体とはちがって温かいその身体。
大丈夫だから、と小さく言われた、気がしたけれど聴覚さえも混沌としていて分からなかった。
何も、見えない。けれど、腕を伸ばしたらそこにはちゃんと一角の首筋があって。
僕の手は虚空を頼りなく掴んで、やっとその太くて屈強な首筋にしがみついた。

「四番隊呼ばなくて平気か?」
「うん。」
「息、できるか?」
「・・・・・・。」

ねぇ、どうして一角を思うほどに僕は醜くなってしまうのかな。
「好き」ということは、とても残酷だと思った。
なにしろ一番美しくありたい人の前で一番なりたくない自分をさらしてしまうのだから。
僕はいつだって、美しくあるはずだったのに。
とりわけ一角の前ではそうでありたかったのに。

「どんな夢見てたんだ?」
「・・・・・。」

怖い夢だよ、とってもとっても。
きみが、ぼくのかさねてきたうそをしってぼくはきらわれてすてられて。

「みにくい」

その日はいつか必ず夢なんかじゃなくやってくるはずで。
僕が恐れているのは、夢なんかじゃなく間もなくやってくるその時。

「みにくい・・・っ!」

こんなに近くにいるのに、息が苦しくてたまらない。
きっとこんな僕など君は愛でてはくれないだろう。

震える手で、一角の寝巻きの袂を握り締めたら、頭の上に大きな手を置かれた。
武骨でごつごつとした、美しい手。この手さえいつか手放す日が来る。

「ねぇ、一角。」

どこにも行かないで、なんて言えるほど僕はもう綺麗じゃない。

「嫌わないで・・・!」

卑怯者。そうやって、優しい君を呪縛してどうしようというのだろう。
こんなこと、後どれくらい繰り返せばいいのだろう。
髪の間に指をくしゃっとうずめられて、わしゃわしゃと撫でられた。
僕は、その逞しい肩に頭を乗せて窓の外で曖昧な色の空に浮かぶを残月をぼんやり見ていた。
一角は、とっても、とっても優しくて。しかも偽善なんかじゃなく心の底から僕を慈しんでくれて。
とても皮肉な話だけれど、それがいつも僕を悲しくさせる。君はとても優しい。

「嫌いになんてならねぇよ。」
「うそ。」
「嘘じゃねぇ。」

 

ようやくはっきりとしだしてきた意識で、息を吸った。
変なの、君の所為で息が出来ないのに、君がいなくては息さえ出来ないなんて。
曖昧な頭で、あたりを肩越しに障子に目をやれば、細い隙間から薄く白みだした東の空が見えた。
紫紺よりも薄く、蒼より濃い、美しいコバルトブルー。僕の一番好きな色。

「醜いもんも、見ねぇでいいから、な。」

 

無理だよ、そんなの。
言えずに、白い袂を握り締めた。
無理だよ、だってどんなに世の中の醜いものから目をそむけたって、さ。

 

一番醜いのは僕自身なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

うちの弓親は相変わらず情緒不安定というか・・あ、れ?(汗/男前弓親もだいすきなんだけど
一角は男前なんですよひたすら!ダンナに欲しいくらいです。
弓親が嫁じゃなかったら私が欲しかった(真顔で

BGMは東京事変「夢のあと」イメージ。

 

 

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