アンビヴァレント

「ね、もう一回」
「あ?今のが最後っつったろ。」
「知らない。」

仕方ねぇな、なんてぼやきつつも律儀にもう一度キスをくれる。
そんな君が少し嫌いで、とてもとても好きで好きで、どうしようもない。

きっと君は知らない。
これが最後のキスになるという可能性を僕がどれほどに恐れているか。

君が戦いに赴く後姿を見るたびに、いつも思うことがある。
君がもう帰って来ないんじゃないのかって。
ひたむきな眼差しも、照れ隠しの笑顔も、僕に向けられる言葉も、
もうこれが最後になるんじゃないかって。

そんな僕の心の内など君は知らないだろう。
いや、妙なところで勘のいい君なら知っているかもしれない。
けれど知らなくていい。

君が苦しむのを見て、耐え切れず加勢して君のプライドを傷つけても。
苦しむ君を見ても加勢せずに君を失うのも。
どの道を選んだって僕はきっと後悔するのだろう。
それならせめて今は、今だけは何も言わずに抱きしめていてよ。

「一角。」
「ん?」
「死ぬときはさ、」

「本望だ」と言うのは、嘘じゃなかった。
戦っている時の君が一番美しくて、一番好きだ。
だからこそ君の望みを、邪魔したくなくて。

「僕の目の前以外で死んだら許さないから。」

君は変なところでやさしいから、僕が君なしじゃ生きてはいけないことさえ、知っているのだろう。
それでも愛しい人、君の生のベクトルは確実に「死」に向かっているんだね。

「あたりめーだ。」

強靭な腕に抱きしめられながら、僕は目を閉じた。

愛してはいけない愛してはいけない愛してはいけない。
そう強く思った。

 

 

 

一角が死ななくて本当によかったなぁと思います。
にしてもゆみちの立場は切ないなー。

 

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